東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)86号 判決
一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本件訂正後の発明及び本件審決の理由の要点についての原告主張の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、本件審決を取り消すべき事由の有無について判断する。
1 取消事由(一)について。
原告は、引用例一の製造機と引用例二の成形機とは、その属する技術分野が異なるから、引用例二の成形機における発明を引用例一の製造機に転用することにより、本件訂正後の発明をもつて、容易に発明をすることができたとしたのは誤りである旨主張するが、理由がないものといわざるをえない。即ち、
引用例一及び引用例二に本件審決認定の記載があることは当事者間に争いがなく、この争いない事実に成立に争いのない甲第五号証(引用例一)、第六号証(引用例二)及び本件口頭弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。
引用例一には、重量レール(「カム40」と説明・図示されている箇所)を手動で昇降させることによつて、この重量レール上を通る下杵(「下方パンチ21」と説明・図示されている箇所。以下同じ。)の高さを変更させ、その高さによつて決定される金型の容積を増減させ、これによつて成形品を得る回転式錠剤製造機が記載されており、具体的にその実施例に則していうと、回転式の圧縮打錠機(回転式錠剤製造機に相当する。)に関するものであつて、回転盤(「ヘツド15」又は「回転ヘツド15」と説明・図示されている箇所。以下同じ。)の一回転の範囲において、粉末の充てん、粉末を錠剤に成形する圧縮成形及び錠剤の排出という行程をとるものであり、粉末の充てんの位置には金型室の容積を手動により調整する手段を備えているものである。即ち、回転盤の回転に応じて下杵と上杵(「上方パンチ20」と説明・図示されている箇所。以下同じ。)は下杵案内レール(「静止テーブル13」と説明・図示されている箇所)と上杵案内レール(「カムトラツク23」と説明・図示されている箇所)によつて、それぞれ、回転する回転盤の孔の中を、上下方向に運動できるように構成され、その作動は、回転盤の回転に伴い下杵が降下を開始し、金型室を開き、粉末が流入して充てんが終了し、そのあと下杵は上昇し、粉末の一部を金型の外へ押し上げて粉末の過剰分をかき落とし、下杵はこの時点から水平移動もしくは降下し、上杵と下杵が上と下のローラ(「圧縮ロール25・26」と説明・図示されている箇所)に当接することにより、粉末は錠剤に圧縮せしめられて成形され、このあと金型の外に押し上げられた錠剤は排出シユートにより取り出されるものであること、前記粉末を充てんする位置には、金型室への粉末の充てん重量を調整する手段として、下杵の下方に重量レールを設け、この重量レールの位置を手動によつて上下に調整することにより、金型室の深さを適正の位置に調節できるものであること、
引用例二には、煉瓦成形機において、杵にかかる荷重の変化を電気的歪計によつて電気量の変化に変換し、この電気量の限界以上の変化によつてリレー及び電動機を作動させるようにし、この原動機の作動によつて下杵の高さを変化させ、その高さによつて決定される金型の容積を増減させ、これによつて重量調整した成型品を得る煉瓦成形機が記載されており、具体的には、煉瓦の成形のため、まず下杵(「下方プランジヤー19」と説明・図示されている箇所。以下同じ。)が位置ぎめされ、プレス機構によりトグルリンクが緊張状態にされると、上杵(「上方プランジヤー18」と説明・図示されている箇所。以下同じ。)は降下して金型中の煉瓦形成混合材(粉末)を圧縮し、この上杵の降下による右の混合材に対する圧縮力は下杵をスプリングに抗して降下させ、その過程において、粉末を圧縮成形し、その際の圧力はサブフレームに設けられた電気的歪計によつて検知されるところ、その検知された数値が、基準の圧力値(圧縮荷重)に相当する場合には電気的歪計により生じる抵抗値によつて回路を不作動にしているが、基準の圧力値(圧縮荷重)以外の抵抗値を生じた場合には、二次リレースイツチ部材、モータスイツチ等から成る回路を作動せしめて、補助モータを正逆いずれかの方向に作動させ、これによつて煉瓦形成混合材を入れる金型容積の大きさを調整すべく、下杵の位置を上昇又は下降せしめることができるものであり、このようにして、圧縮荷重が高くなりすぎたら下杵をして金型の容積を適当に減少する作動を行わせ、また圧縮荷重が低くなりすぎたら下杵をして金型の容積を適当に増大する作動を行わせることによつて、自動的に金型の容積を変化せしめ、成形品である煉瓦の重量を正確に調整するものであること、
右のとおりの事実が認められ、この事実によれば、引用例一の製造機も、引用例二の成形機も、その目的とするところは粉末を圧縮して成形品を得るものであり、そのために金型へ入れる成形用粉末材料の容積を調整することによつて成形品の重量を調整する技術手段をもつものであつて、その技術思想を共通にするものということができる。したがつて、その成形品が、引用例一の製造機においては錠剤であり、引用例二の成形機においては煉瓦であることをもつて、両者は技術分野を異にするものと断じ去ることは不当であり、むしろ両者は、金型中の粉末を杵により圧縮して成形する形式の成形機であつて、その成形のための原理は同一で、粉末材料から成形品を得るいわゆる圧縮成形機という技術分野において一致するものというのを相当とする。
原告は、引用例一の製造機と引用例二の成形機とは、それが利用される産業分野が異なり、また、その主張する技術構成、性質機能の点で全く相違する旨主張するが、仮にその主張するような事実関係にあるとしても、直ちに、技術分野を異にするとはいえないこと前説示から明らかであるから、右主張は採用し難い。原告はまた、引用例二の成形機はプレス機械の技術に属するのに対し、引用例一の製造機は小さな成形品を対象とし、特有の技術に属するから、両者は相違する旨主張するが、両者の機械の相違ないし対象となる成形品が相違するからといつて、その技術分野を異にするとはいえないこと前説示のとおりである。原告は、甲第一四号証(日本粉体工業協会編「造粒便覧」)を提出し、同号証には錠剤機について記載されているが、煉瓦成形機については記載されていないから、引用例一の製造機と引用例二の成形機が審決の認定するような粉末材料の圧縮成形機と呼ばれる一群の装置に属するとはいえない旨主張するところ、成立に争いのない同号証によれば、なるほど原告主張のとおり錠剤製造機についての記載はあるが、煉瓦成形機については記載がないことを認めうるものの、同号証を検討するときは、同号証が「造粒」即ち「文字どおり“つぶ”をつくる操作」という観点からその「理論と実際まで周辺技術を含めて記載」した文献であることを認めうるので、してみれば、煉瓦がその大きさないし形状から、同号証の目的とした「造粒」の範疇には属しないものとの理由から、煉瓦成形機につき記載されるところがないものと解するのを相当とするというべく、したがつて、同号証の存在から、原告の右主張を肯認することができない。また、原告は、甲第一五号証(橋本明著「プレス加工ハンドブツク」及び第一六号証(通商産業省窯業建材課監修「窯業・建材ハンデイーブツク」)を提出しているが、成立に争いのない甲第一五号証によれば同号証にはプレス機械について、成立に争いのない同第一六号証によれば同号証には耐火煉瓦について各説明するところがあることが認められるものの、これらと前顕甲第一四号証とを総合しても、引用例一の製造機と引用例二の成形機の各成形品である錠剤と煉瓦が、その使用される産業分野が異なり、もしくは成形品の大きさに差があることは認めることができても、もつて両機械がいわゆる圧縮成形機という技術分野において一致するとした前記認定を覆えすに至らない。更に原告は、引用例一の製造機と引用例二の成形機とはその属する技術分野を異にすることは、特許庁編「産業別審査基準」によつても明らかである旨主張し、甲第一七号証ないし第二一号証を提出するが、この主張も採用することができないこと以下に述べるとおりである。即ち、成立に争いのない甲第一七号証(特許庁編「発明および実用新案の分類表」)によれば、発明及び実用新案の分類表は全技術分野を一三五類(昭和三十六年四月の改正によつて一三五個の類)に区分し、これを補助類に分け、そして更にこの補助類を細分して一八三七一個の種目を設けたものであり、その役割は、発明、考案を審査するに当たり公知文献の適切な調査範囲を決めるための基礎的の資料となるものであり、また公知文献の所在を明らかにしてその利用を便利にするためのものであること、そのために、産業系列の見地に従つて、第二〇類には煉瓦に関する産業分野としての「陶磁器、耐火物」、第三〇類には錠剤に関する産業分野としての「医薬、毒薬」、また、第七三類には産業系列の見地によらない基本的な技術事項としての「つち打ち、圧搾」として、それぞれ区分されていることを認めうるところ、右事実からも知ることができるとおり、同号証は、発明、考案の出願を審査するに際して、その発明、考案の特徴を把握したうえで、その発明、考案の属すべき産業分野はもとより、それ以外の産業分野からも必要とする公知文献を調査、検索し、検出するに役立つ資料になるものであるということであつて、他に、同号証の記載から直ちに前記認定の趣旨の技術分野を確定するものと解すべき証拠はない。よつて、同号証記載の「分類」を異にするの故をもつて、引用例一の製造機と引用例二の成形機とがその属する技術分野を異にするとすることはできない。また、いずれも成立に争いのない甲第一八号証ないし第二〇号証(いずれも、特許庁編「産業別審査基準」)及び第二一号証(特許庁作成「審査基準の手引き」)の記載に前記甲第一七号証につき述べたところを併せ考えれば、発明、考案の出願につき適正公平な判断をするための指針として審査基準が作成されたものであることを認めうべく、そのうち甲第一八号証ないし第二〇号証は各産業分野特有の問題についての基準を加えて作成されたもの、第二一号証は審査基準の適正な運用のための指針を示すものとして作成されたものであつて、いずれも前記認定のような趣旨における技術分野を確定するためのものではないと解するのを相当とするから、甲第一七号証につき述べたと同様の理由により、同第一八号証ないし第二一号証の存在をもつて引用例一の製造機と引用例二の成形機とがその属する技術分野を異にするとすることはできない。
右のとおりであるので、引用例一の製造機と引用例二の成形機とはその属する技術分野を異にするとの原告の主張は採用することができないから、右主張を前提に本件審決の認定判断の誤りをいう取消事由(一)は理由がない。
2 取消事由(二)について。
原告は、本件審決が引用例二につき認定する相関関係がどのようなものか明らかにされていないし、また、その相関関係が本件訂正後の発明における原告主張の精密な比例関係であることは引用例二に開示されていない旨主張する。
(一) ところで、当事者間に争いのない本件訂正後の発明の要旨、本件審決の理由の要点についての事実に、成立に争いのない甲第二号証(本件訂正前の本件発明の公報)、第三号証(本件訂正審判請求書)、第一一号証(本件訂正明細書)を総合すれば、原告は、本件訂正審判の申立によつて本件発明につき、その特許請求の範囲のうち「又はポンチ」の記載を削除し、「粉末圧縮成形機」を「回転式錠剤製造機」として原告主張の本件訂正後の発明の要旨に記載のように訂正するほか、右訂正に対応して明細書の記載中「粉末圧縮成形機」の記載を「回転式錠剤製造機」に訂正し、及び「又はポンチ」の記載を削除し、発明の名称と明細書の誤記を訂正しようとするものであるほか、補正するところはないこと、を認めることができる。
(二) しかして、右(一)に掲記の各証拠によれば、本件訂正がなされるものとすれば、その特許請求の範囲が、その訂正前の「粉末圧縮成形機」から訂正後の「回転式錠剤製造機」と訂正されることになり、そのことによる技術的意味は、本件訂正前の「発明の詳細な説明」中に、「この発明は、例えば錠剤製造機等の粉末圧縮成形機に於いて成形品の重量を自動的に調整する方法に関するもの」とされていた従前の粉末圧縮成形機を、その具体的態様としての一つである「回転式錠剤製造機」に特定したものであるほか、この特定により本件発明の目的及び効果に変更を与えるものではないことを認めることができる。
(三) そして、前顕甲第二号証、第一一号証及び本件口頭弁論の全趣旨を総合すれば、本件訂正後の発明は、次のとおりのものであることが認められる。即ち、錠剤の製造において、粉末を圧縮して成形品を得る場合、一般に、成形品の重量は、臼に供給される粉末の量の変化によつて、常に一定に保つことはできないから、従来、成形品の重量を一定にするには常に成形品の重量を検査し、その重量の変化に応じて臼に供給される粉末の容積を調整していた。換言すれば、成形品の重量を一定にするために、例えば成形品の重量が規格品より大きい場合には手動により重量レールを上昇させ、下杵を上げて臼の容積を減少させて臼に供給される粉末の容積を調整していた。このような従来の方法は、成形品の重量を検査した後に、手動的に臼の粉末の容積を調整するものであるから、重量の検査と容積の調整との間に相当の時間を必要とし、したがつて、この時間中に成形される大量の成形品がほとんど無駄になつてしまうという致命的な欠点を有していた。本件訂正後の発明は、自動的に成形品の重量を調整するものであつて、右の欠点を解消する。この自動調整は、成形品の重量が圧縮成形時の圧縮ロール(圧縮部材)に掛かる荷重と比例することに着目したことにより達成された。そして、成形品の重量は臼の中の粉末の容積に比例し、この容積は臼の深さに比例するから、成形品の重量は臼の深さに比例する筋合である。右のようにして、本件訂正後の発明は、粉末が圧縮成形される場合の荷重を計測し、この荷重が一定の限界をこえる場合に重量レールと下杵を昇降させて、この下杵の上端によつて決まる臼の深さを調整すれば、成形品の重量を調整することができるとするものであつて、原告が、本件訂正後の発明の要旨として主張するところの構成をとるものであり、この構成により、成形品の重量を瞬間的に、かつ自動的に調整することができ、生産能率を向上させることができるという効果を奏するものである。以上のような事実を認めることができる。
(四) 右(一)ないし(三)に述べたところからすれば、本件訂正後の発明の技術的意義は、粉末を圧縮成形して成形品を得るに際しての成形品の重量を調整する技術に関する改良であつて、従来、成形品の重量の調整を、重量レール、下杵の昇降により臼の容積を変更して行い、この調整は手動によりなされるものであつたが、本件訂正後の発明では成形品の重量調整を重量と荷重との比例関係に着目して自動的になしうる点に特徴があるものということができる。
(五) しかして、以上のことと、前顕甲第二号証に「この発明は、成形品の重量が、回転式錠剤製造機の圧縮成形時における圧縮ロールに掛かる荷重と比例することに着目したことによつて得られた。即ち、成形品の重量が上記圧縮ロール等に掛かる荷重と比例することにより、成形品の重量の変化はこの荷重の変化を計測することによつて知ることができる」旨記載されていることからすれば、本件訂正後の発明においては、臼の容積に応じて収容される粉末の量がきまるから、成形品の重量は臼の容積に比例し、かつ臼に収容された粉末を圧縮する際の荷重は臼の容積に比例することになるから、成形品の重量と圧縮荷重とは比例関係にあるということができると、解することができる。
(六) 一方、前顕甲第六号証によれば、引用例二には、「圧縮荷重が高くなりすぎたら金型の容積を適当に減少する作動を行わせ、圧縮荷重が低くなりすぎたら金型の容積を適当に増大する作動を行わせることによつて、金型の容積を正確に調整することができる」旨記載されている(この記載があることは、当事者間に争いがない。)ことが認められるところ、右事実によると、引用例二の成形機においては、成形品の重量を一定値に調整するには、粉末の量をきめる金型の容積を調整することにより行うものであり、この場合、成形品の重量は金型の容積に比例することにより調整することができること、しかして圧縮荷重が高くなると金型の容積を減少し、圧縮荷重が低くなると金型の容積を増大させて調整することは、金型の容積と圧縮荷重とが比例することからできるものであると解することができるのであつて、してみれば、引用例二の成形機において、成形品の重量と圧縮荷重との間には、両者が一つの規則正しさをもつて同時に変化していくというように、相互に関係し合つているということができ、この関係をもつて、本件審決は相関関係と認定したものというべく、本件審決のこの認定は正当であつて誤りがないものというのを相当とする。
(七) 以上述べたとおり、本件審決において、引用例二について認定しているところの相関関係がどのようなものであるかは説明されていて明らかであり、また、右相関関係が本件訂正後の発明における原告主張の精密な比例関係に当たることが引用例二に開示されているというべく、原告の前記主張は採用することができないから、右主張を前提に本件審決の認定判断の誤りをいう取消事由(二)は理由がない。
3 取消事由(三)について。
原告は、引用例一の製造機においては、成形品の重量と圧縮荷重との間に(必須不可決の要件というべき)精密な比例関係の存在ということは、本件出願時には知られていなかつたし、その故に引用例二の成形機に関する発明を引用例一の製造機に転用することは想到することはできなかつたから、右の点に関する本件審決の認定判断は誤りである旨主張する。然しながら、既に述べたところから明らかなように、引用例一の製造機は、錠剤である成形品の重量を調整する技術としては手動によるものであり、そうとすれば、自動的な重量調整の技術の前提となる、成形品の重量と圧縮荷重との間の比例関係の存在が、本件出願時に、引用例一の製造機において知られていなかつたとしても異とするに足りないし、のみならず、既に述べたように、引用例二の成形機における、本件審決認定の相関関係は、本件訂正後の発明における精密な比例関係に当たるというべく、してみれば、本件審決に原告主張の看過誤認はないのであつて、これとは異なる見解に立ち、引用例二の成形機に関する発明を引用例一の製造機に転用できるものと想到することはできなかつたとして、本件審決の認定判断を誤りであるとする原告の右主張は採用することができない。なお、原告は、引用例一の製造機の成形品である錠剤は、大きさや重量において非常に小さいことを強調し、その故に精密な比例関係の存在が必要であるから、大きさや重量において右と異なる煉瓦に関する引用例二の成形機に関する発明を引用例一の製造機に転用することはできない旨述べるが、成形品の大きさや重量の相違が、成形品の重量を自動的に調整を行うこととする技術手段を採用するに当たり、技術的な相違を与えると認むべき証拠はないので、転用の困難性をいう右主張も採り難いのである。よつて、取消事由(三)は理由がない。
4 取消事由(四)について
原告は、本件審決は、引用例二の成形機においても大量生産できると誤認し、本件訂正後の発明が奏する大量生産という効果も比較の問題でしかないとしたのは(本件訂正後の発明の奏する特段の効果を看過誤認したものであり)誤りである旨主張する。
前記(2、(一)ないし(六))認定の事実に前顕甲第二号証、第五、第六号証を総合すれば、(1)本件訂正後の発明において、成形品の重量を瞬間的にかつ自動的に調整することができて、生産能率を著しく向上させるという効果を奏すること、この生産能率を著しく向上させる効果(原告主張のいわゆる大量生産なる効果と同義と解することができる。)は、本件訂正後の発明において、回転式錠剤製造機における成形品の重量を調整するにつき従来の手動調整手段の代わりに引用例二の成形機におけるような自動調整手段を採用したことによるものであること、(2)一方、引用例二の成形機における成形品の重量を自動的に調整する技術的手段は、手動的調整手段による場合と対比し、成形品の重量を検査するに際し成形品を取り出す必要がなく、したがつて検査から金型の容積を調整するまでの時間を必要としないものであること、を認めることができ、これに反する証拠はないので、してみれば、引用例二における成形機においても、本件訂正後の発明におけると同様、成形品の重量を瞬間的にかつ自動的に調整することができ、生産能率を著しく向上させることができるという効果を奏するものと解するのを相当とする。
したがつて、引用例一の製造機に引用例二の成形機における発明を転用することにより、本件訂正後の発明の奏する効果である大量生産を可能とすることは、当然起こりうる効果であるというべく、審決が、引用例二の成形機においても成形品を大量生産するための装置であつて、本件訂正後の発明の奏する効果である大量生産は、比較の問題でしかない旨認定判断したことが、誤りであるとすることはできない。
原告は、甲第一三号証(原告作成のカタログ)を提出し、そこに見られる、本件訂正後の発明の実施による成形品の生産能力の数(錠の生産個数)が引用例二の成形機の生産能力の数(煉瓦の生産個数)に比べ、大であることを強調し、大量生産に対する効果につき、本件審決の認定判断に誤りがあるとするもののようであるが、両装置における錠剤と煉瓦という各成形品の態様の違いを勘案するときは、いずれも成形品の重量自動調整手段を備えた本件訂正後の発明と引用例二の成形機とが、その生産する成形品の数のうえで大きな差があるとしても、その差をもつて本件訂正後の発明における効果が、引用例二の成形機のそれに比して容易に予測しえない顕著なものとは断じ難いので、甲第一三号証の存在は、前記認定を覆えすに至らない。
よつて、取消事由(四)も理由がない。
5 取消事由(五)について
原告は、本件審決が、「引用例一の製造機と引用例二の成形機とにおけるプレス機構として回転式の機構を用いるかトグル式の機構を用いるかは、技術構成上の差異として取るに足りないもの」と認定判断したのは誤りであると述べ、その理由として次のとおり主張するが、いずれも理由がない。即ち、
(一)まず、原告は、引用例一の製造機においては回転式錠剤機として特段の機構をもつのに対し、引用例二の成形機はプレス機構であつて、それぞれ技術構成及び性質、機能を異にする旨主張する。然しながら、引用例一の製造機における回転式の機構と引用例二の成形機におけるトグル式の機構とは、被告主張のように、圧力伝達機構としてともに周知の技術事項であり、かつ、このようにして伝達された圧力を利用して粉末を成形することも普通に行われている技術常識に属することであり、してみれば、粉末の成形機において回転式の機構を採用するかトグル式の機構を採用するかは必要に応じて任意になしうる程度のことというべく、したがつて、引用例一の製造機と引用例二の成形機とにおけるプレス機構として回転式の機構を採用するかトグル式の機構を採用するかの差異は、技術構成上の差異として取るに足りないものとした本件審決の認定判断に誤りはないものというべきである。
そして、前記(二、1)認定の事実に前顕甲第五号証、第六号証を併せ考えれば、(1)引用例一の製造機における回転式の機構も、引用例二の成形機におけるトグル式の機構も、ともに粉末圧縮機における成形品の重量調整手段を備えた技術において臼に供給された粉末を圧縮成形させるための圧力伝達機構として同様の技術的意味を有する装置であること、(2)引用例一の製造機と引用例二の成形機とは、これを粉末圧縮成形機における成形品の重量調整手段に関する技術としての観点からすれば、ともに同様の技術的意味を有する装置であり、ただ、前者において重量調整手段として手動により臼の容積を調整するが、後者において重量調整手段として電気的歪計による電気量により臼の容積を自動的に調整することのほか、特有の技術上の差異はないこと、(3)右の、手動的調整か自動的調整かの差異は、自動的調整手段をもつて手動的調整手段に転用することの格別の困難性は認められないことからすれば、技術構成上の差異として格別のものではないこと、(4)成形品の圧縮荷重を検知する時点に着目すると、引用例一の製造機も引用例二の成形機もともに粉末圧縮成形する際に重量を検知することに変わりがなく、ただ、臼の容積を調整するのは引用例二の成形機においては圧縮成形する位置において行うのに対し、引用例一では圧縮成形する位置から離れた位置である粉末の充てん位置において行うことの差異はあるけれども、もともと、回転式錠剤製造機である引用例一の製造機は粉末充てん位置と圧縮成形位置とが異なること技術構成上当然のことであつて異とするに足りず、かつ引用例一の製造機に、引用例二の成形機における自動的調整手段を転用することの格別の困難性は認められないことからすれば、圧縮荷重を検知する位置と粉末充てん位置とが同一場所であるか離れた場所であるかは技術構成上の差異として格別のものではないこと、
と解することができ、右のように解するに妨げとなる合理的理由ないし証拠はないから、引用例二の成形機における重量自動調整手段を引用例一の製造機に転用することは容易に想到しうることと解するのが相当である。したがつて、「引用例二の成形機における機構を引用例一の製造機に転用することが容易ではない」とする根拠としての一事由として述べた原告の主張(引用例一の製造機は回転式であり、引用例二の成形機はトグル式であつて、異なる旨の主張)を、本件審決が排斥し、「引用例一の製造機と引用例二の成形機とにおけるプレス機構として回転式の機構を用いるかトグル式の機構を用いるかの差異は技術構成上の差異としては取るに足りないものである」とした認定判断に誤りはないものとするを相当とする。
よつて、原告の右主張は採用することができない。
(二) 次に、原告は、引用例二の成形機における重量自動調整技術は、充てん、圧縮、排出が同一位置で行われる技術構成と不可分一体に結合されているものであつて、この構成とは相違する本件訂正後の発明に転用できるとは、想到しえない旨主張する。
前記(二、1)認定の事実と前顕甲第六号証から、引用例二の成形機における重量自動調整技術は、煉瓦の成形が、臼が移動することなくなされるとの点において、粉末の充てん、圧縮、排出が同一位置で行われる技術構成に基づくものであると認めることができ、原告主張のとおりであるが、同号証によつても、右の粉末の充てん、圧縮、排出が同一位置で行われることと、成形品の重量自動調整技術とを不可分一体として結合されたものとして把握しなければならないとする合理的根拠を見出すことができない。却つて、前記(二、1)認定の事実と前顕甲第六号証からすれば、引用例二の成形機における成形品の重量自動調整技術は、圧縮成形時におけるプレス機構による圧力の変化を検知することにより金型の容積の大きさを下杵の位置を変えることによつて自動的に調整し、その結果、成形品の重量を自動的に調整することができるものであることを認めることができ、してみれば、引用例二の成形機における重量自動調整技術は、粉末の充てん、圧縮、排出が同一位置で行われる技術構成と不可分一体に結合されているとすることはできないから、右不可分一体に結合されていることを前提とする原告の右主張は、結局、採用することができない。
(三) 更に、原告は、重量調整方法が、引用例二の成形機と本件訂正後の発明では圧縮荷重を検出する状態が異なり、したがつて本件訂正後の発明における移動状態における圧縮荷重の検出、検出位置より離れた位置における臼の容積の調整が可能であることは、全く想到することはできなかつたことである旨主張する。然しながら、この主張も採用することができない。即ち、
当事者間に争いのない本件訂正後の発明の要旨、前記(二、1)認定の事実、成立に争いのない甲第一号証、第一一号証及び前顕甲第五号証、第六号証を総合すれば、本件訂正後の発明における回転式錠剤製造機が「圧縮成形位置に設けた圧縮ロールに対して臼と上杵、下杵を有する回転盤が回転する形式の粉末圧縮成形機」であり、引用例二の成形機が「一定位置に設けられた金型(本件訂正後の発明の臼に相当する。)と上杵、下杵とを備え、その上杵の上方にトグル式の機構から成る圧縮成形用の圧力伝達機構をもつ構成の形式の粉末圧縮成形機」であつて、原告主張のように、引用例二の成形機が圧縮荷重を粉末、上杵、下杵が同一位置に静止した状態で検出するか、本件訂正後の発明が水平移動する上杵、下杵が圧縮ロールの位置を通過する瞬間での移動状態で検出するかの相違は、右のように、粉末圧縮成形機の形式に基づく単なる差異にすぎないこと、また、本件訂正後の発明においては圧縮荷重検出位置と粉末充てん位置とが離れている旨の原告主張の構成であることは、もともと引用例一の製造機であるところの、本件訂正後の発明と同じ回転式錠剤製造機そのものの構成であつて、成形品の重量自動調整技術に起因するものではないことを認めることができる。
そして、右認定の事実に基づき、右に挙げた各証拠を併せ検討すれば、「引用例二の成形機における重量自動調整技術は杵にかかる荷重の変化を電気的歪計によつて電気量の変化に変換し、該電気量の限界以上の変化によつてリレー及び原動機を作動させるようにし、この原動機の作動によつて下杵の高さを変化させ、その高さによつて決定される金型の容積を増減させることによつて重量調整した成形品を得るものであり、かつ、引用例一の製造機において手動的に成形品の重量を調整するに当たり、粉末の充てん位置で下杵の高さを変化させて金型の容積を調整することが示されていること、しかして、重量自動調整技術において、圧縮荷重の検出を、本件訂正後の発明では圧縮ロール、引用例二の成形機ではサブフレームにおいて行つている相違はあるものの、引用例一の製造機における成形品の重量を手動的に調整する技術を、引用例二の成形機における重量自動調整技術をもつて転用することにより、引用例一の製造機における圧縮ロールの圧縮荷重を自動的に検出することとなり、加えて、電気的歪計によつて限界以上の変化を検出することによつて原動機を作動させ、これによつて下杵の高さを変化させることも引用例一の製造機における手動による金型の容積調整の手段から当然容易に想到することができるものである」と解するのを相当とする。
よつて、本件訂正後の発明について、これと引用例二の成形機とを直接対比し、その場合に、圧縮荷重の具体的検出の態様が異なり、かつ圧縮荷重の検出位置と粉末充てん位置とが離れていることを理由に、本件訂正後の発明は、引用例二の成形機における発明を、引用例一の製造機に転用することによつて容易に想到することができないとする原告の主張は採用することができない。
右の次第であるから、取消事由(五)も理由がない。
6 取消事由(六)について。
原告は、本件審決は、本件訂正後の発明が、その構成により奏する、成形品の重量を自動的に調整して調整時間の遅れを解消し、生産能率を著しく向上させるという特段の効果を、看過誤認した旨主張する。
ところで、前記(2、(一)ないし(六))認定の事実に、前顕甲第二号証、第六号証を総合すれば、
(一) 原告が主張する、本件訂正後の発明において奏する効果は、従来の回転式錠剤製造機では錠剤である成形品の重量の調整は、手動的に行われていたこと、即ち、成形品を取り出して重量を検査し、その後重量レール、下杵の高さを変化させ、臼の容積を調整していたこと、したがつて、検査と調整との間に相当の時間を要し、この時間中に成形される成形品はほとんど無駄になるという欠点があつたが、これを自動的に成形品の重量を調整しうる構成としたことにより、圧縮成形時の荷重に基づき直ちに臼の容積を調整することができた結果によるものであること、
(二) 一方、引用例二の成形機においても、自動的に成形品の重量を調整しうるものであり、圧縮成形時の荷重の変化を検知し、これにより直ちに金型の容積を調整する手段をその構成としたことにより、検知(検査)と調整との間に時間を要せずかつ一定の重量の成形品が無駄なく得られるものであること、
右のような事実を認めることができ、これに反する証拠はないので、引用例二の成形機における技術的手段を採用することにより本件訂正後の発明においても同様の効果が得られるであろうことは容易に予測しうるとした本件審決の認定判断に誤りはない。してみれば、本件審決が、本件訂正後の発明において奏する原告主張の効果を看過誤認したとの原告の右主張は採用することができない。
なお、原告は、本件訂正後の発明において奏する、調整時間の遅れの解消なる効果について、調整時間の遅れは手動による重量調整における欠点であつて、成形品の重量検査位置と重量調整位置とが同一である引用例二の成形機においては生じないとし、本件審決が、「引用例二の成形機にあつても調整時間の遅れを解消して生産能率を向上させている」とした認定判断が誤りである旨主張しているが、前顕甲第二号証、第一一号証によれば、本件訂正後の発明の明細書に記載されている「欠点」なるものは、「成形品の重量を検査してから臼に供給される粉末の容積を調整するまでに相当の時間を必要」とすることをいうのであつて、手動的に成形品の重量を調整する場合の右欠点をもつて調整時間の遅れというものであることを認めることができ、他に、原告主張のように、成形品の重量検査位置と重量調整位置とが同一であるか異なるのかに基づく効果であることを知りうる証拠はないので、原告の右主張は、本件訂正後の発明の奏する効果に関する、証拠に基づかない主張をもつて本件審決の前記認定判断を非難するに帰し、到底、採用することができない。
よつて、取消事由(六)も理由がない。
7 以上述べたとおりであつて、結局、本件訂正後の発明は、引用例二の成形機における発明を引用例一の製造機に転用することにより当業技術者において容易に発明をすることができたものとし、本件訂正は、特許法第一二六条第三項に規定された要件を満たしていないから、許可をすることができないとした本件審決に違法はない。
三 よつて、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないので棄却することとする。
〔編註その一〕 本件における訂正後の発明の要旨は左のとおりである。
圧縮成形時に於ける圧縮ロールに掛かる荷重の変化を電気的歪計によつて電気量の変化に変換し、該電気量の限界以上の変化によつてリレー及び原動機が作動するようにし、該原動機の作動によつて重量レールが上下に昇降するようにし、この重量レールの昇降によつてこの上の下杵の高さを変化させて下杵の高さによつて決定される臼の容積を増減させ、これによつて粉末の臼への供給量を調整するようにした回転式錠剤製造機に於ける成形品の重量自動調整方法。(別紙参照)
〔編註その二〕 本件に関する別紙は左のとおりである。
<省略>